2007年12月31日月曜日

新たな概念? Early Recovery - ‘初期の復旧’

ちょっと前の話ですが、11月終わりにジュネーブで行われた危機予防と復興局が主催のワークショップに呼んでもらいました。ワークショップの目的は、UNDPとしてのEarly Recoveryの政策づくりです。また新しい用語が出てきましたが、Early Recovery とは何でしょうか?

少し背景を説明してみましょう。UNDPの大部分の活動は、中長期開発戦略を政府と一緒につくったり、行政府、立法府、司法といった国家の柱を強化したり、環境政策をつくったりという仕事です。ところが、インド洋での津波、そしてその後のパキスタンでの地震など、超大規模の自然災害がここ数年頻繁に起こりました。ここで問題になったのが、この問題-‘災害や紛争直後、人道援助機関が食糧を配布したり、シェルターを確保しているあいだ、UNDPなどの中長期的開発を対象にしている機関が何をすべきか’ということ。

で、その答えを見つけ出そうというなかで、新たに出てきたのがこの初期の復興という概念。定義はこれ:
  • Early recovery is a multidimensional process of recovery that begins in a humanitarian setting. It is guided by development principles that seek to build on humanitarian programmes and to catalyse sustainable development opportunities. It aims to generate self-sustaining, nationally owned, resilient processes for post-crisis recovery. It encompasses livelihoods, shelter, governance, security & rule of law, environment and social dimensions, including the reintegration of displaced populations.

あまりよくわかりませんが(実際この定義をめぐって今でもいろいろな議論が起こっています)個人的な理解では、中長期的開発援助のいいところ(持続可能性)を人道支援が行われている間から活かして中長期的な要素をもった活動を開始し、かつ中長期的計画をたてて、人道支援が終わる前から持続的な支援へのギアに変換しましょうということでしょうか。Early とついているからには、ただの復旧とは差別をつけたいようです。紛争や災害後の18か月を目安に初期とそうでない復旧を区別しようとしているようです。

ではUNDPが具体的に何をするのか?これについてワークショップではさんざん議論をしましたが、今のところ以下のようなことをすべきだということに落ち着いています。

  • ‘初期の復旧’というクラスターを、人道的クラスター(住居、水、食糧など)と並行でつくり、他の機関をコーディネートする
  • 中央政府が危機に対応できるような支援をする(人道支援機関は政府のキャパシティーを強化することよりも、被害者を救済することに優先順位があるからでしょうか)
  • 地方政府が危機を調整できるような支援をする(同上)
  • コミュニティー開発の原理を導入し、被害を受けた地域の復興を助ける
  • 紛争解決(これは例えば、出生証明や土地の権利書がなくなった場合などに対する対処)
  • DDR
  • 基本インフラの修復(小規模の道路復旧、水道官をつなげ直すなど)
  • 短期的雇用創出(災害地にある瓦礫をきれいにすれば日給をいくらあげるなど)
  • 中長期的戦略づくり

さて、このリストをざっと見て考えてみてほしいのですが、この‘初期の復旧’とは新しい概念としての意義がどれほどあるのでしょうか。Reconstruction, recovery, rehabilitation, peacebuilding などなど昨今多くの概念が生まれています。新しい概念を作るのもいいですが、この辺で関係のある既存の概念を整理する必要があるのかもしれませんね。どうでしょうか、、、?

2007年12月30日日曜日

交渉スキル

日々の仕事でよく感じていることが、交渉スキルの必要性。政府とプロジェクトの管理体制について、組織内部でリソースアロケーションについて、短期コンサルタントとフィーについて、スタッフと仕事のデッドラインについてなどなど、日々様々なレベルで何らかの‘交渉’にかかわることが多いのです。これは公共分野でもビジネスの世界でも同じで、事実エキュゼクティブを対象とした交渉スキル育成のコースは山ほどありますよね。

UNDPでは、人材教育に対する投資を増加させており、Virtual Development Academyという、オンラインのコースを充実させてきています。またこの交渉スキルの分野での人材育成の必要性を感じて、数年前からハーバード大・MITが共同で開発したパブリック・ディスピュート・プログラムと共同でオンラインのコースを提供し始めました。私もどんなもんかなと思って受講してみました。

このコースは、3か月のコースで、以下のモジュールからなりたっています。
  • Module 1: Introduction
  • Module 2: Preparation for Negotiation
  • Module 3: Techniques of Value Creation
  • Module 4: Techniques of Value Distribution
  • Module 5: Implementation and Follow-Up
  • Module 6: Multi-Stakeholder Consensus Building
  • Final Exam
内容的には要するに、
  • 交渉に備えて、関係者が交渉の場で要求しているもの(ポジション)ではなく、ちゃんと各関係者の本当に欲しているもの(インタレスト)を理解しなさい
  • 自分自身を含めたすべての関係者の‘譲ってもいい最低限のライン’をはっきり理解しなさい
  • 交渉中には、各関係者の利害の理解にもとづき、皆の利害の合計が増大(このコースではバリュー創出と呼んでいる)するようなオプションを考えなさい
  • その後、利害を分ける際(バリュー配分)、インタレストに応じて配分しなさい
  • 交渉自体に利害がない、第三者を入れて、交渉のファシリテーションをさせるといいですよ

といったことを教えています。

各モジュールで、コースワークがあり(現実に自分が関係した交渉の例を挙げながら3つの質問に答える)2人のインストラクターが、20人ほどの受講者を担当し、コースワークの採点をし、コメントを返してくれるという非常にシンプルなもの。コースワーク自体は実は結構大変で、私も毎週末3-4時間を割いてコースワークを消化していました。ついに先週全コースを終え、最終試験もパスし、晴れて交渉スキルコースの修了証をもらうことになっています。

修了証はいいけれど、いったい何を学んだのだろうかと少し考えてみました。結論は、この概念を今後の実際の交渉で実行してみて、自分の体で学んだことを消化するまでは学習は終わっていないということ。つまり、上にあげた内容は、必ずしも‘うーん、目からうろこが落ちた!’というほどのものではないですが、実際の交渉で意識的にこれらの概念を実行することが一番難しい点でしょう。このようなことを考えていると、次のことを思い出しました。

私は若かりし頃、民間のあるコンサルティング会社で働いていたことがありますが、入社した直後のトレーニングで、様々な‘問題解決法’なるものを教え込まれたわけです。どんなことを教えられるかというと、

  • 会社の課題をまずはしっかり理解せよ。
  • 課題が分ったら、その課題を分析し(イシュー・アナリシス)、原因を分解せよ。
  • そして打ち手のオプションを洗い出し、最も効果的な打ち手を具体的に描き、その実行プランをつくれ。
といったもの。まあ実はもっといろいろなテクニックがあるわけですが、要するにこんな感じなわけです。誰が読んでも、そんなこと常識ちゃうのと思うでしょうが、これを実際に会社が直面している問題にたいして、アプライするのが簡単ではないのです。自分で、こんなこともうやっているよ、と思っていても、やり方が甘かったりすることが多いのです。

というわけで、「頭では理解していても実行は難しい」という自分で学んだことが、この交渉スキルコースの学習にも当てはまるはずだと思ってます。よって、今後は学んだことを、意識的に実行するということが大事。精進精進、、、。

2007年12月29日土曜日

HIV・AIDSのガバナンス


今まで、HIV/AIDSについてちゃんと勉強をしたことも、仕事をしたこともなかったのですが、シエラ・レオネに来て、上司から新しいHIV/AIDSに関するポートフォリオを立ち上げてくれと言われ、この新しいテーマにしばらく取り組んでいます。ちなみに、シエラレオネはHIV/AIDSの感染率が1.5%とまだ低いとはいえ、国境を接したリベリアやギニアでは感染率がずっと高く、これらの隣国との間での人の流動が大きいので、ここでしっかり対策を打たなければ感染率が増加するといわれています。

このHIV/AIDSの分野は、おそらく開発業界でも一番多くの機関が絡んでいるところで、ユニセフ、WHO、UNAIDS、UNFPA、世銀などなどが独自の分野でそれぞれの仕事をしています。これにNGOなどを加えるとおそらく各国で最低10機関がHIV/AIDSに関する何らかの仕事をしていることになります。

それほど多くの機関がこの分野で仕事を仕事をしていることもあり、3っつのOne (Three Ones)という原則がドナーと政府の間で合意されたほどです。これは各国で一つのHIV/AIDS国家戦略をもち、一つの国家調整機関のもと、一つのモニタリング・評価システムを持つ、というHIV/AIDSの分野での援助の効率性を向上させる原則です。

ではUNDPが介入する意義はなんでしょうか?公式見解としては、HIV/AIDS分野のガバナンス強化と、HIV/AIDSのイシューと戦略を貧困削減戦略文書(PRSP)に反映させるということになっています。この制限に基づいて、我々もシエラレオネの国家エイズ事務局とUNDPとしてどういった援助が可能か、過去半年ほど議論してきました。








そのうちの一つとして、各県ごとのHIV/AIDS Risk Indexなるものを作り、エイズ対策をより戦略的にしようというアイデアを温めてきました。今までは単に県ごとの感染率をトラックしているだけでしたが、それだけではなかなか戦略を立てにくいし、どの県に予算をより配分し、どのような支援をすべきかがあまりよくわかりません。また、2004年から地方分権が始まり、県政府のHIV/AIDS対策をとる能力強化が大きな課題となっていることもあり、以下3つを掛け合わせてインデックスを作ることを考えています。

  1. 感染率

  2. 県民のHIV/AIDSに関する知識

  3. 県政府のキャパシティー

14の県で最もリスクがある4つの県をハイリスク県、次の5つをミディアム・リスク、最後の5つをロー・リスクと分類し、それぞれ異なった対策を施そうというもの。国家エイズ事務局もこの案に結構乗り気になっており、次はメソドロジーを精査して実際にインデックスを計算してみることになっています。同時に、似たようなことをどこかの国で行ったかどうかを調査してみようと思っています。

アプローチ的には、経済指標で計っていた‘開発’の概念を、UNDPが保健・教育の視点を組み合わせ、人間開発指数として定義し直したり、企業のパフォーマンスを、従来利益やRoIで計っていたのを、バランス・スコアカードなどが教育への投資、内部プロセスの効率性、顧客の満足度を加えてより包括的にとらえなおしたことに通じるものがあると勝手に考えております。

自分でもなぜだか分りませんが、このような定量分析を、ガバナンスやパフォーマンス管理などのソフトな開発分野に持ち込むことには個人的に変な執念を抱いております。

2007年12月27日木曜日

平和構築と援助の効率性

援助の効率性(Aid Effectiveness) の議論は、ローマパリ宣言以来深化しています。今回は援助の効率性と平和構築との接点について簡単に見てみます。 OECDでも‘脆弱国家’における援助の効率性というテーマで研究を行っています。

結論的にいえば、援助の効率性の議論は、平和構築を行っている国で非常に重要だということ。それはなぜかというと、

  1. 紛争後の国では援助への依存度が、他の途上国に比べて高い。よって、国家のオーナーシップに影響を及ぼす。
  2. 特に人道支援が行われている場合には、多数のNGOが参入することもあり、政府として、どこで何がおこっているのかが把握しにくい。よって、いったいいくらのお金がどの分野に流れているのかが分らない。
  3. 紛争後の国では、紛争の影響で、会計制度や調達制度を含む国家のキャパシティ-が低く、ODAが政府のシステムで消化しにくい。 よって、ドナーがドナー独自のルールでプロジェクトを遂行することが多い(つまり、PIUが増加する)。
  4. とはいえ、援助を有効に使わなければ、紛争に逆戻りする可能性がある

シエラレオネでも、これらの問題が顕著に表れており、さらに、世界的な傾向である‘新興ドナー’(中国やナイジェリアなどの今まで開発援助では大きなプレーヤーではなかった国々で、OECDドナーの設立しようとするルールに必ずしもアラインしないことがある)の台頭もあり、援助を管理することが、結構大変なのです。

とはいえ、政府とドナー側も色々と手を打っているのも事実。11月にナイロビ行われた援助の効率性についてのUNDPのワークショップで、
シエラレオネ政府が行ったプレゼンを読んでみてください。

2007年12月26日水曜日

日本での休暇


今月12月の5日から18日まで、弟の結婚式に出席するために日本に休暇でかえっていました。今回の帰国を利用して、中学・高校や大学、大学院、以前の会社の友人らと久ぶりに会いました。また、東ティモール時代の上司である長谷川祐弘氏のゼミで、シエラ・レオネの話もしてきました。ちょっとそのことについて書いてみます。

法政大学の2-3年生が中心となった国際機構のクラスで、2-30人の生徒がいました。ICUや早稲田大学院からの学生も来ていました。余談ですが、先日、
東大・京大・慶大・早大の提携が報道されていましたが、私の学生時代とは変わったものですね。やはり国立大学法人制度の導入や、少子化、海外の大学との競争が激化しているからでしょうか。

さて、ゼミですが、シエラ・レオネと言っても、
Blood Diamondの映画のイメージが日本では強く、すぐダイヤモンドの話になりがちです。今回は、このような偏ったイメージを払拭するためにも、シエラ・レオネの簡単な歴史、政府の開発戦略、国連の支援戦略などの大きな話とともに具体的な国連の活動のイメージが湧くように、地元も魚屋(といっても数人の女性が浜辺で売っているだけですが、、)さんの話から、ドナーに頼りすぎの財政事情(国家の財源の55%がODA)、ガバナンスの分野のUNDPのプロジェクト例なども織り交ぜて話をしてみました。

90分のゼミで‘講義’を1時間ほど、ディスカッションを30分ほどということでしたが、私がかなり時間をオーバーしてしまい、あまりディスカッションの時間がありませんでした、、、。

ゼミの後には、学生からのフィードバックをいただきました。読んでみると、具体的な話を一番面白がってくれたようです。この学生の中から、将来一緒に仕事をする人が出てきてくれるといいですね。

2007年12月24日月曜日

平和構築とは、、、?

平和構築といわれて思い浮かぶものは何でしょうか?おそらく、元兵士の社会統合'DDR'がまず思いつくのではないでしょうか。また、移行期の正義(とでも訳すのでしょうか)といわれる、真実和解委員会や、特別法廷、難民保護、警察や軍隊などの保安セクターの改革が挙げられるでしょう。本当にこれだけでしょうか、、?ちょっと定義をみてみましょう。

  • 平和構築委員会:紛争から平和に至るまでに必要な支援の全て
  • ジョンズ・ホプキンス大:持続可能な平和に至る過程を支援することで、和解、制度・機構づくりや、政治的・経済的変化を起こすことを通じて、暴力が再発するのを防ぎ、紛争の根本的な原因と紛争が起こす影響に対処すること。

非常に漠然とした定義ですね。しかし、カギとなるのは、‘全て’とか‘過程’という言葉でしょうか。要は、最初に挙げたDDRなどの概念は平和構築の氷山の一角でしかないのです。平和構築とは、持続的開発を紛争後のコンテクストにもってきたものととらえるべきで、教育や保健、基本インフラ整備、ガバナンス、HIV・AIDS、環境保全、経済発展、雇用創出、といわれる所謂伝統的な‘開発’のコンポーネントなしには語れません。

図にするとこんな感じでしょうか



将来平和構築の分野で働きたいと思っている方々は、ぜひ広義の平和構築をよく理解して、包括的な視点から考えてみてくださいね。

2007年9月21日金曜日

ブログを始めるにあたって、、、


日本の開発支援実務者や研究者の中で、ここ最近‘平和構築’の概念・活動が注目を集めているようです。一方‘平和構築’という言葉が一人歩きしていることも否めない感があります。このブログを通じて、平和構築の現場の日々の活動、個人的考察、などを、マクロ、ミクロの視点を織り交ぜながらシェアし、ひいては日本の平和構築への貢献につながれば幸いです。

シエラ・レオネは紛争後の復興の成功例としてよく例にでる国で、また日本が議長と務める平和構築委員会のパイロット対象国にもなっており、この国での平和構築支援についての情報を発信することは少なからず意義があるのではとも考えています。

ではよろしくおねがいします。

Toshi